「脳の資源をどう使うか?人生後半の“頭の使い方”改革」③

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第3章:記憶しないことは怠けではない

「すぐ忘れてしまうから、なんでもメモに頼っているんです」——そんな言葉を、自分に対して後ろめたく感じていませんか?

しかし結論から言えば、それはまったく後ろめたく思う必要はありません。むしろ、「メモに頼る」という行為は、脳の働きを理解し、賢く活用している証拠なのです。

書く・話す・記録するは「脳の整理術」

精神科医であり作家でもある樺沢紫苑氏は、著書『アウトプット大全』の中で「人間はアウトプットすることで初めて記憶と理解が深まる」と述べています。

たとえば、読んだ本の内容を誰かに話す。仕事のアイデアをメモに書き出してみる。自分の考えをノートにまとめてみる……。

これらはすべて、脳内にとどまっていた情報を“整理して定着させる”ための行為です。つまり、書くことや話すこと自体が、脳の中を整える知的活動なのです。


メモは「サボり」ではなく「戦略」

メモに頼ることは決してズルでも怠けでもありません。それは、脳の短期記憶が持つ限界(いわゆるワーキングメモリの制限)を理解したうえで、あえて覚えない”という選択をしているのです。

私たちは1日に何十、何百という小さな決断や記憶を処理しています。これをすべて脳内で管理しようとすれば、すぐに過負荷が起きてしまうのは当然のこと。

だからこそ、「覚えること」から「書き出すこと」へと意識をシフトすることは、むしろ思考の質を上げる第一歩になります。


記録することで“脳のバッファ”が広がる

アニー・マーフィー・ポール著『The Extended Mind』でも、記録という行為がいかに思考を助けるかについて触れられています。

彼女の提唱する「拡張された心」の理論では、記録、空間、身体、他者との関係など、脳の外部にある要素が思考の補助装置として働くとされています。

つまり、私たちは頭の中だけで考える必要はなく、「外に出すこと」がそのまま考えることにつながるということです。メモやノート、ToDoリスト、カレンダーといった「記録の道具」は、脳の負担を軽くし、思考の余地を生む存在なのです。


手で書くことの効果

デジタルツールが発達した現代ですが、手書きの力は未だに侮れません。手で文字を書くという行為は、脳に直接働きかけ、記憶や発想力を刺激します。

たとえば、紙のノートに予定を書くだけで、スマホのカレンダーに入力するよりも「記憶に残る」と感じたことはありませんか? それは、手の動きと視覚情報が連動して、脳に多重の刺激を与えているからです。

また、書く速度の遅さもポイントです。ゆっくり書くことで、自然と考えるスピードも落ち着き、思考を深掘りする時間が生まれます。


見返すことで「第二の学習」が起きる

記録するだけではなく、「見返す」ことにも価値があります。過去のメモやToDoリストを見返すことで、当時の自分の思考や感情、判断を追体験でき、そこから新たな気づきが生まれます。

これは「リフレクション(内省)」とも呼ばれ、学びの質を高める有効な手法です。忘れないために記録するのではなく、記録を通じて自分の思考の軌跡を見つめ直すことが、さらなる思考の助けになるのです。


自分の「脳の外部装置」を持とう

現代には、優れた記録ツールが数多く存在します。ノートや手帳はもちろん、Googleカレンダーやメモアプリ、音声記録アプリやAIレコーダーなど、自分に合ったツールを選べばいいのです。

重要なのは、「覚えること」にこだわらず、「使える形で記録しておく」こと。その習慣が、日常の思考や判断、創造的な活動の質を大きく底上げしてくれます。

そして、これは年齢を問わず、誰もが実践できる知的戦略です。むしろ記憶力が衰えがちな中高年世代こそ、「記録」を味方につけるべきなのです。


📚 関連書籍

『アウトプット大全』(樺沢紫苑)

書く・話す・記録することで記憶と理解が深まる「出力の力」を解説。脳科学や心理学の知見をもとに、思考と学習におけるアウトプットの重要性を説いています。

『The Extended Mind』(アニー・マーフィー・ポール)

「記録すること」がいかに脳の負担を軽減し、むしろ思考を広げる装置として働くかを科学的に解説。記憶を補うのではなく、思考を支えるための“拡張戦略”として記録を位置づけています。


次章では、私たちが知らず知らずのうちに脳のリソースを浪費してしまう「悪習慣」について考えます。マルチタスク、通知、情報過多……脳を疲弊させる行動の背景を深掘りしていきます。

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