「脳の資源をどう使うか?人生後半の“頭の使い方”改革」④

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第4章:脳のリソースを浪費する習慣とは?

「最近、集中力が続かない」「判断が鈍っている気がする」——そんな感覚に心当たりがあるなら、それは“脳のリソース”が知らず知らずのうちに消耗しているサインかもしれません。

脳は非常にエネルギーを使う臓器です。人間の身体全体で消費するエネルギーのうち、約20%を脳が使っているといわれています。そしてそのエネルギーは無尽蔵ではなく、使えば確実に疲れていくのです。

では、どんな習慣が私たちの脳を日々摩耗させているのでしょうか?この章では、無意識のうちに「脳のリソース」を浪費してしまう習慣について掘り下げていきます。


スマホの通知は“マイクロストレス”の連続

スマートフォンは便利な道具である一方で、私たちの注意力を奪う強力な“誘惑装置”でもあります。

メールの着信音、LINEの通知音、SNSの「いいね」通知。これらにいちいち反応するたびに、私たちの脳は集中状態から引き戻され、再び元に戻るのに多くのエネルギーを消費します。

たとえば、1つの通知に気を取られたあと、もとの作業に集中し直すまでに平均で23分かかるという研究結果もあります。つまり、通知を受けるたびに「集中力の損失」が発生しているのです。

こうした“マイクロストレス”が積み重なって、脳が常に疲労状態に陥ってしまうのです。


SNSやメールの断続チェックが“脳の断片化”を招く

SNSをついつい開いてしまう、メールを5分おきにチェックしてしまう——こうした行動も脳にとっては大きな負担になります。

一見すると「数秒だから大したことはない」と思われるかもしれません。しかし実際には、注意の切り替えが発生するたびに脳はエネルギーを使っています。

また、SNSには感情の波が伴います。ポジティブな投稿に嬉しくなったり、ネガティブな情報で不安になったりすることで、感情のアップダウンが起こり、それもまた脳の疲労につながるのです。

結果的に、脳は情報の海で泳ぎ続けている状態になり、思考力や判断力は確実に鈍化していきます。


「選択肢の多さ」はむしろリスクである

私たちは「選択肢が多い方が良い」と思いがちですが、実はそれが意思決定の質を下げていることが多くの研究で示されています。

心理学では「決断疲れ(decision fatigue)」と呼ばれる現象があり、選択肢が多い状況にさらされ続けると、脳が疲れ果てて合理的な判断ができなくなるのです。

たとえば、スーパーで20種類のドレッシングから1つを選ぶよりも、3種類の中から選ぶ方が満足度が高いという実験結果があります。

これは、日常生活にもそのまま当てはまります。朝の服選びに悩む、ランチを決めるのに迷う、仕事のタスクの優先順位が決まらない……

こうした“小さな決断”の積み重ねが、脳の判断力を静かに蝕んでいくのです。


マルチタスクの弊害

「同時に複数の作業をこなすのが得意」——それは能力の高さではなく、脳のリソースを無理に引っ張り合っている状態です。

神経科学の研究では、マルチタスクを繰り返す人ほど、1つ1つの作業効率が落ちる傾向があるとされています。また、切り替えのたびに集中力と記憶力が低下することもわかっています。

実際には「同時処理」ではなく「注意の高速切り替え」をしているだけなので、脳は休む間もなく働きっぱなしになってしまうのです。


脳の節約術:環境と習慣の最適化

では、どうすればこうしたリソースの無駄遣いを防ぐことができるのでしょうか?鍵は、「環境」と「習慣」の最適化にあります。

1. 通知を切る

スマホやパソコンの通知をオフにするだけで、脳への負担は劇的に減ります。1日に数回、まとめて確認する「受信タイム」を設定するのも有効です。

2. ルーティンを作る

朝の服装や食事メニュー、通勤経路などを“決め打ち”することで、無駄な決断を減らせます。有名なスティーブ・ジョブズの黒いタートルネックも、こうした脳の節約術の一環です。

3. シングルタスクに戻る

一度に1つの作業に集中する「シングルタスク」を意識的に実践することで、脳のパフォーマンスは飛躍的に向上します。作業時間を区切り、1つのことに専念する習慣を持ちましょう。

4. 情報の“入口”を整理する

SNSやニュースアプリの数を減らし、情報源を厳選することも重要です。量ではなく「質」で判断する基準を自分なりに持っておくと、情報疲れを防げます。


📚 関連書籍

『デジタル・ミニマリスト』(カル・ニューポート)

テクノロジーとの距離を見直し、自分の価値観に合った使い方を選ぶ「デジタル最適化」の提案。通知カット、SNS断捨離、深い集中のためのルール作りなど、実践的な手法が満載です。

『ライフハック大全』(堀正岳)

情報過多時代における脳の整理術を、多様なライフハックという形で紹介。デジタルツールや思考のフレームワークを活用し、脳のリソースをうまく管理するためのヒントが得られます。


次章では、シニア世代にとって特に重要な「脳の整理術」について取り上げます。覚えなくてよいこと、考えるべきこと。その線引きをどうするのかを、具体的に見ていきましょう。

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