「脳の資源をどう使うか?人生後半の“頭の使い方”改革」⑤

おすすめ図書

第5章:シニア世代こそ実践したい「脳の整理術」

60代、70代と年齢を重ねるにつれて、「忘れやすくなった」「決断に時間がかかるようになった」と感じる方は少なくありません。しかし、それは単に衰えたのではなく、脳のリソース管理がより重要になっているサインかもしれません。

本章では、シニア世代が無理に「脳を鍛える」のではなく、脳を整える=脳の整理術を取り入れることで、暮らしが格段に楽になり、質が高まる方法を紹介していきます。


パターン化の力:脳の意思決定を減らす

まず取り入れたいのが、朝の習慣のパターン化です。毎朝、何を食べるか、何を着るかで時間を取られていませんか?そのたびに脳は意思決定を強いられ、エネルギーを消費しています。

この点について、神経科学者ダニエル・J・レヴィティンは『スマート・ブレイン』の中で「選択肢の多さが意思決定の質を下げる」と指摘しています。彼は日常の小さな選択を減らすことで、脳の集中力を温存できると述べています。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたのも、まさにこの戦略です。シニア世代も、朝食メニューを固定したり、服をあらかじめ組み合わせておくなど、「考えなくていい仕組み」を日常に取り入れることが、脳の余裕を生みます。


メモで判断を“外注”する

歳を重ねると「忘れることが増える」ことに不安を感じがちですが、記憶しようと無理をするよりも、メモやToDoリストに頼ることの方がよほど効率的です。

脳はストレージ(記憶装置)ではなく、プロセッサ(処理装置)です。覚えておくことよりも、考えることに集中させた方が、本来の機能を活かせます。

ジェイク・ナップ著『時間術大全』では、「脳に頼らず、すぐ書く」「決断しなくて済む仕組みを作る」ことが、現代人にとって最も有効な戦略だと説かれています。

たとえば、

  • 買い物リストを定型化する
  • 週の予定を日曜夜にまとめて書き出す
  • 「午前中にやることリスト」を毎朝手書きで作る

こうした小さな仕組みが、日々の“決断の重荷”を減らし、自由な思考と行動の余白を作ってくれます。


「ひとりの時間」が脳のリセットになる

年齢を重ねるほど、「人に合わせる」よりも「自分の時間を持つ」ことが精神的な安定や創造性にとって重要になってきます。

とくに、外からの情報があふれる現代では、意識的に“何もしない時間”を持つことが、脳の再生につながるのです。テレビを消して、スマホを置いて、ぼーっとお茶を飲む時間。散歩しながら考えを巡らせる時間。これらはただの“休息”ではなく、“整理と統合の時間”なのです。

これは脳の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という状態に関係しており、静かにしているときに脳は内省や未来の計画を無意識に行っています。この時間があるからこそ、次の行動が明確になりやすくなるのです。


「自分の大事なこと」に集中する

シニア期は、人生の集大成として「本当にやりたいこと」や「大切にしたいこと」に集中する時期でもあります。

そのためには、外から入ってくる情報や人間関係を一度見直すことも重要です。何に時間とエネルギーを使うかは、若い頃以上に「選ぶべき課題」になってきます。

たとえば、

  • ニュースは1日1回に絞る
  • 会いたい人に絞って会う
  • 新しいことに挑戦する余白を残す

このように、「情報の断捨離」「時間の再配分」「思考の優先順位づけ」をすることが、脳の整理につながり、生活全体が軽やかになります。


習慣を“仕組み化”することの意味

日々の習慣を「自然にできる流れ=仕組み」にしておくと、意志力や記憶力に頼らずに物事が進みます。

たとえば、

  • 「起床→ストレッチ→朝のコーヒー→前日の振り返り」の朝ルーティン
  • 「昼食後→15分の散歩→帰宅後→夕飯の準備→メモの見返し」の午後ルーティン

このように、行動を“流れで考える”ことで、脳のエネルギーを節約しながらも充実した1日を送ることができます。

ジェイク・ナップの『時間術大全』では、「集中するための時間ブロック」「考えないで済む選択」「エネルギーが高い時間帯の見極め」など、シニアでも実践しやすいタイムマネジメント術が豊富に紹介されています。


📚 関連書籍

『スマート・ブレイン』(ダニエル・J・レヴィティン)

高齢者が意思決定を減らすことで生活の質が上がることを、神経科学的な根拠をもとに解説。日常の選択肢を減らすことで、心のゆとりが生まれることが示されています。

『時間術大全』(ジェイク・ナップ)

習慣を仕組みに落とし込むことで、日々の負担を減らし、集中すべきことにエネルギーを注ぐ方法を具体的に紹介。シニアでもすぐに活用できる実践例が豊富です。


次章では、手書きや音声メモなど「第二の脳」としての記録術について詳しく掘り下げていきます。どんな道具を使い、どんなタイミングで記録するのが脳のマネジメントに有効なのか、具体的にご紹介していきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました