「脳の資源をどう使うか?人生後半の“頭の使い方”改革」①

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第1章:脳の資源とは何か?

現代の脳科学では、「ワーキングメモリ(短期記憶)」には容量の限界があることがわかっています。これはパソコンでいう「RAM(ランダムアクセスメモリ)」のようなもので、同時に複数の情報を扱うと処理能力が低下し、情報の取りこぼしや判断ミスが起きやすくなるのです。

このような脳の構造と限界について、神経科学者ダニエル・J・レヴィティンは著書『スマート・ブレイン』の中で詳しく述べています。彼は、脳は「記憶の倉庫」ではなく「情報の整理と判断を行う処理装置」であり、そのためには覚えるよりも“整理し外部に記録する”という考え方が大切だと強調しています。

また、集中力や注意力の保護という観点では、カル・ニューポート著『デジタル・ミニマリスト』も参考になります。彼は現代人がどれほど情報の洪水に晒され、脳のリソースを奪われているかを示し、テクノロジーとの距離を見直す重要性を説いています。

現代の脳科学によれば、私たちの「ワーキングメモリ(短期記憶)」には明確な容量の限界があるとされています。例えるなら、パソコンの作業領域にあたるRAMのように、一度に扱える情報の量が限られているため、過剰に詰め込むと情報処理の精度が落ち、判断ミスや混乱を招きやすくなるのです。

私たちの脳も同様に、あれもこれもと一度に抱えようとするとパンクしてしまいます。しかも、この短期記憶の容量は個人差があるとはいえ、一般的には7つ前後の情報しか一時的に保持できないと言われています(ミラーの法則)。これを知らずに「あれもこれも覚えておこう」とすれば、当然、脳はすぐに処理限界を迎え、エラーを起こします。

さらに重要なのが、注意力・集中力・判断力といった認知的な能力も、実は有限のリソースだということ。どれだけ頭の良い人でも、一日中ずっと高い集中力を維持できるわけではありません。私たちは皆、同じように「限られた脳のバッテリー」を持って生きているのです。

ここで注目すべきは、「脳の資源」は使えば使うほど消耗するという性質です。心理学の研究では「決断疲れ(Decision Fatigue)」という現象が知られています。たとえば、一日に数多くの意思決定をすると、夕方には判断が鈍くなり、消極的な選択や先送りが増えるのです。これは、意思決定にもエネルギーが必要で、そのエネルギーは無限ではないことを示しています。

だからこそ、「すべて覚えよう」「常に集中しよう」とするのは無理な話。 脳の資源をうまく節約し、配分することこそが、“脳のマネジメント”です。


脳のリソースを浪費している日常習慣

私たちは、無意識のうちに脳のリソースを浪費していることがあります。たとえば、スマホの通知を受け取るたびに注意が逸れる、SNSやメールのたび重なるチェック、朝の服選びに迷い続ける——こうした日常の習慣が、知らず知らずのうちに脳のエネルギーを奪っているのです。

こうした些細な積み重ねが、「なんだか疲れる」「判断に時間がかかる」といった感覚につながり、やがて「記憶力が落ちたのでは」「自分は衰えてきたのでは」といった不安につながることもあります。実際は、脳の仕組みを理解していれば、防げることも多いのです。

朝の服装をあらかじめ決めておく、ルーティンを構築する、通知をオフにしてまとめて確認するなどの「脳の節約術」は、トップ経営者やクリエイターだけでなく、私たち一般人にとっても、忘れてしまったことへの焦りや自信喪失を防ぐ、非常に実用的な手段となり得るのです。


脳は「ストレージ」ではなく「処理装置」である

ダニエル・J・レヴィティンの『スマート・ブレイン』では、脳の機能について「脳は記憶の倉庫ではなく、情報の選別と処理を行う道具である」と語られています。この視点は非常に重要です。私たちは「忘れるのは悪いこと」だと刷り込まれてきましたが、実は“覚えすぎること”こそが、脳の働きを妨げている可能性があるのです。

必要な情報を必要なときに取り出せるように、外部記憶(ノート、メモ、アプリ、音声記録)を活用し、本当に大事な思考に脳の力を割く。それが「思考の質」を上げ、「集中すべきこと」に集中する秘訣となります。


デジタル時代の脳疲労と「選択的無視」の重要性

カル・ニューポートの『デジタル・ミニマリスト』では、「情報の断捨離」が脳の健康に必要不可欠であることが説かれています。

私たちは毎日、何百というメッセージ、通知、広告に晒されています。これらすべてに対応しようとすれば、脳のリソースはすぐに枯渇してしまいます。そこで重要なのが「選択的無視」。つまり、本当に重要な情報以外は無視する能力です。

この能力こそが、現代を生きる上での“新しいリテラシー”であり、脳の資源を賢くマネジメントする第一歩といえるでしょう。


脳のマネジメントとは「習慣のデザイン」である

ここまでの話をまとめると、脳のリソースを守るには次のような習慣が鍵となります。

  • 毎朝の服装や食事など、意思決定を減らすルーティン化
  • メモやToDoリストの活用による「外部記憶」の徹底
  • スマホ通知の制限とSNSの利用時間のコントロール
  • 情報の取捨選択に関する明確な基準づくり

これらを日常生活に取り入れることで、私たちは「脳の無駄遣い」を防ぎ、本当に集中すべきことにエネルギーを注ぐことができるのです。


📚 関連書籍

『スマート・ブレイン』(ダニエル・J・レヴィティン)

神経科学の視点から、情報過多の現代においていかに脳が処理限界に陥りやすいかを解説。特に「覚えるよりも、整理し、外部に記録すること」が大切だという視点は、本章の核心と一致します。

『デジタル・ミニマリスト』(カル・ニューポート)

テクノロジーに振り回されず、自分の注意資源を守る生活設計が必要だという思想を提唱。スマホやSNSによる注意力の分断が、いかに脳の効率を下げているかが実例とともに語られています。


出典元

  • ダニエル・J・レヴィティン著『スマート・ブレイン:思考を整理し、情報を使いこなす技術』(原題:The Organized Mind)NHK出版, 2015年
  • カル・ニューポート著『デジタル・ミニマリスト:本当に大切なことに集中する』(原題:Digital Minimalism)早川書房, 2020年

次章では、実際に「覚えないこと」を意識的に実践していたアインシュタインのエピソードをもとに、どのように脳の資源を守っていたのかを深掘りしていきます。

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